TOP特別連載企画木津自然農 第一回 

木津自然農 第一回



「耕さず、肥料・農薬を用いず、草や虫を敵としない」
そんな農業があるというのだが・・・。

木津自然農
細谷泰高

第一回

rune2

ある農業を志す人に会いに行った。
常識って何なんだろうと考えこんでしまった。


「農薬は一切使っていません」
「化学肥料は使いません」
「有機肥料だけでやってます」
最近そんなフレーズをよく聞く。農産物の直売所やなんとかマルシェなどという場所に行けば、そういうものでなければ食べ物にあらずといったぐらいの勢いだ。
子供の将来のこととか、自分の健康とか、広くは生態系のことなどに心を配る人たちに支持されて、爆発的とは言えないまでも、かなり分厚い流れになりつつあるように感じられる。そんななか聞こえてきた言葉があった。
「耕さず、肥料・農薬を用いず、草や虫を敵としない」
えっと思った。

「肥料・農薬を用いず」というくだりは前述のように、今ではひとつの趨勢になっている。
だが「耕さず、草や虫を敵としない」の部分に耳がそばだった。
耕して、種を撒き、雑草を取り、害虫を駆除し、天気に一喜一憂しながら、やっと収穫する。
それが農作業に対する一般的なイメージではないだろうか。なのに、耕しもせず、雑草や害虫を目の敵にしないというのだ。
まして肥料も農薬も撒かないのだとしたら、まったくもって何にもしていないのに等しいのではないかと思ったわけなのだ。
そういうものが農業と言えるだろうかとさえ思った。

そんな常識を覆すような農業を実践している人が木津に居るとの噂を聞き、伝手を頼って会わせてもらった。
細谷泰高さん。日焼けした顔に髭がよく似合う大きな人だった。

木津駅のすぐそばに、
その農地は広がっていた。


木津自然農。
細谷さんは自らの農業のやり方をそういうふうに呼んでいる。
実はこの名前は細谷さんのお師匠筋にあたる川口由一さんが主催する赤目自然農塾に由来している。
「耕さず、肥料・農薬を用いず、草や虫を敵としない」
という言葉は、その川口さんが実践している赤目自然農塾が掲げているテーマであり、細谷さんが継承しようとしている農業の根本思想でもある。
奈良と三重との県境に位置する赤目にある農地に有志が集まって自然に即した農業を学び、実践している赤目自然農塾。
そして木津駅の東側、ロータリーに立てばすぐそばに見える農地で、有志と共に学びと実践に励んでいるのが木津自然農である。
現在奈良や、京都や大阪の人など十数人が木津自然農の仲間として、毎月第三土日にこの木津駅そばの農地に集まって、細谷さんを中心にして自然農の考え方や実践の方法を一緒に学んでいる。
この両日は基本的に共同作業を中心に進められていくが、これら共同の農地の他に、各個人が管理を任されている畑もある。
そこは各人があいた時間にやって来て、定例の集まりで共に学んだやり方を自分なりに試してみる場であり、好きな野菜を楽しみながら栽培していく場でもある。

細谷さんによれば、この農地のすぐ上に広がる城山台の住宅地にこれから移り住んでくる人たちにも呼びかけて、一緒にこの自然農という農業のあり方を学び実践していけないかと考えているようだ。
そのために城山台の住人の人たち専用のエリアも確保する予定だという。
たまの休みの日にぶらぶらと散歩がてらに農作業に行き、自然に即したやり方で自然の恵みを手にして、我が家の食卓に供する。細谷さんは、そんな贅沢な時間を城山台の人たちに用意してくれるという。

食の安全とか、環境のこととか、自然のこれからなどに意識を向けている人たちには、
たまらない贈り物であるようにも思えたりするのだがどうだろう。

人間の都合ばかりでは
もうやっていけないということなのだろう。


さて木津自然農、そのことに戻る。
「耕さず、肥料・農薬を用いず、草や虫を敵としない」
浅薄を恐れずに言えば、自然のルールの中で人の取り分をどのように分け与えてもらうかを考えながら行う農業というようなことになるだろうか。
そこでは自然を人間の都合に合わせて変えていくことを極力排除することを目指している。ただそれは自然を第一優先にして、人を二の次にするということではない。それでは人間が今までやって来たことの単なる裏返しで、結局は同じことの繰り返しに過ぎなくなる。
そうではなくて、そうすることで自然と人とが共に豊かになり、ずっと永続きする時間の中で暮していけるはずだというような考え方なのだ。

人間の都合ばかりが優先する世界で長年生きてきた記者にとって、それは非常に新鮮で魅力的な世界の話であった。
だが考え方としては魅力的ではあっても、理念だけが先行するばかりで、農業という実践において空疎ではお話にならない。
そんなことを思っていたのだが、話を聞くうちに、そして農作業の実際を幾度が取材するうちに、この自然農という方法が実に理にかなったものであることが次第にわかるようになってきた。
そのあたりのことを追々この連載では書いていこうと思っている。

(つづく)

木津自然農集合日毎月第三土日 10:00頃から
場所JR木津駅のすぐ東に広がる農地 (地図)  
このページのトップへ

メニュー

サイト開設以来の総訪問人数

 人

総アクセス数

アクセス